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大阪地方裁判所 昭和36年(ワ)2057号 判決

主文

被告ら(反訴原告ら)は亡訴外桜井哲治郎の相続人として原告(反訴被告)に対し別紙目録記載の土地につき大阪法務局中野出張所昭和三三年二月一一日受付第二七六一号でもつて訴外荒木久一のためになされた所有権移転請求権保全仮登記、及び同出張所昭和三三年七月九日受付第一八六四一号でもつて亡訴外桜井哲治郎のためになされた右仮登記のその移転による附記登記の各抹消登記手続をせよ。

原告(反訴被告)その余の請求を棄却する。

被告ら(反訴原告ら)の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は本訴、反訴を通じて全部被告ら(反訴原告ら)の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

(原告。反訴被告。以下単に原告と云う。)

本訴請求について

一、主文第一項同旨。

二、被告ら(反訴原告ら。以下単に被告らと云う。)は原告に対し金一九七萬二、一八〇円及び昭和四二年一〇月一日以降前項の各抹消登記手続完了に至るまで一ケ月三萬六、八〇〇円の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言。

反訴請求について

一、主文第三項同旨。

二、反訴費用は被告らの負担とする。

との判決。

(被告ら)

本訴請求について

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

反訴請求について

一、原告は被告らに対し別紙目録記載の土地につきいずれも原告のためになされている大阪法務局中野出張所昭和三四年一月一〇日受付第四一三号所有権移転請求権保全仮登記、同出張所同年六月八日受付第一六三四六号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

二、反訴費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、原告の主張

(本訴請求原因)

一、原告は昭和三三年一〇月二四日甥に当る訴外桜井敏夫にその所有の別紙目録記載の土地(以下本件土地と云う)を担保に入れる条件で五〇萬円を弁済期日昭和三四年四月三〇日(但し、その後弁済期日を昭和三三年一二月末日と改定変更した)と定めて貸付け交付した。ところが、訴外敏夫は右改定された弁済期日を過ぎるもその支払をなさないため原告は取り敢えず本件土地につき大阪法務局中野出張所昭和三四年一月一〇日受付第四一三号でもつて売買予約を登記原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を受けた。それでもなお、訴外敏夫は右債務の返済をなさず、昭和三四年六月二日に至り原告に対し本件土地を右債務の支払に代えて原告に提供する旨の申出をなし、原告はこれを諒承して同出張所昭和三四年六月八日受付第一六三四六号でもつて売買を原因とする所有権移転の登記を受けた。

二、ところで、本件土地には大阪法務局中野出張所昭和三三年二月一一日受付第二七六一号でもつて訴外荒木久一のために同年二月五日売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記、及び同出張所昭和三三年七月九日受付第一八六四一号でもつて訴外桜井哲治郎のために同年七月七日権利譲渡を原因とする右仮登記の移転の附記登記がなされているが、右各登記は次の理由により無効である。

(一) 訴外敏夫は訴外荒木久一より五〇〇萬円余を借受け。右債務を担保するため自己所有の本件土地外八筆につき訴外荒木のために代物弁済予約等を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由させていたが、昭和三三年六月二七日右債務及びその他の負債を返済整理するため自己所有の大阪市住吉区緑木町二丁目八番の一雑種地二六、一五九・四六平方米(七、九一三坪二四)を訴外国光製鋼株式会社に代金三、一六五萬二、九六〇円(三・三平方米当り四、〇〇〇円の割合)で売却した。

(二) 訴外敏夫は昭和三三年七月七日右代金中より四七〇萬三、二〇〇円を訴外荒木に支払い、その余の元利金の免除を受け、同時に本件土地外八筆の右仮登記の抹消登記手続に必要な書類の交付を受けたが、訴外敏夫は当時放蕩三昧に耽る身で先祖伝来の財産を濫費しており、未だ多額の借財を抱えているため、もし右仮登記を抹消することになれば本件土地外八筆は何ら負担の付かない所有権に戻る結果、第三者に容易に差押えられるおそれがあり、これを慮つた訴外桜井哲治郎が本件土地外八筆につき前記抹消登記書類を流用して架空の権利譲渡名下に訴外荒木名義の右仮登記のその附記登記による移転を仮装したものである。

三、訴外哲治郎は昭和四〇年六月二一日死亡し、被告らが相続人として訴外哲治郎の有する権利義務を承継した。

四、原告は昭和三四年六月八日本件土地の所有権を取得したが、原告の再三の請求にも拘らず、訴外哲治郎及び同人死亡後は被告らは右抹消登記手続に応ぜず、原告の本件土地の使用を妨害するため、本件土地を転売することは勿論、これの使用収益が不能となり、次のとおりの地代相当額の損害を蒙つている。

(一) 自昭和三四年六月八日至昭和三五年一二月三一日

月額七、八〇〇円(三・三平方米当り七〇円)、合計一四萬六、三八〇円

(二) 自昭和三六年一月一日至昭和三七年一二月三一日

月額一萬〇、二〇〇円(三・三平方米当り九二円)、合計二四萬四、八〇〇円

(三) 自昭和三八年一月一日至昭和三九年一二月三一日

月額二萬二、七〇〇円(三・三平方米当り二〇四円)、合計五四萬四、八〇〇円

(四) 自昭和四〇年一月一日至昭和四二年九月三〇日

月額三萬一、四〇〇円(三・三平方米当り二八二円)、合計一〇三萬六、二〇〇円

(五) 自昭和四二年一〇月一日以降  月額三萬六、八〇〇円(三・三平方米当り三三〇円)

五、よつて、原告は被告らに対し亡訴外哲治郎の相続人として本件土地に対する前記各抹消登記手続を求め、且つ前項の昭和三四年六月八日より昭和四二年九月三〇日までの損害金合計一九七萬二、一八〇円及び昭和四二年一〇月一日以降右抹消登記手続完了に至るまで一ケ月三萬六、八〇〇円の割合による損害金の支払を求める。

(反訴請求原因に対する答弁)

訴外哲治郎が本件土地につきその移転の附記登記を受けた仮登記は実体に符合しない無効のものであるから、被告らの反訴請求は理由がなく失当である。

第三、被告らの主張

(本訴請求原因に対する答弁)

一、本訴請求原因一項の内本件土地につき原告名義の仮登記及び本登記があることを認め、その余は否認する。

二、訴外哲治郎が本件土地につき訴外荒木のためになされた仮登記の移転による附記登記を受けた理由は次のとおりである。

(一) 訴外敏夫は昭和三一年二月一七日訴外荒木久一より元金五〇〇萬円、利息日歩六銭の約定で借受け、これを担保するため、その所有にかゝる本件土地外五筆(大阪市住吉区東加賀屋町三丁目一五番の一、同所二一番、同所三六番の三、同所四五番等)につき代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記(但し、本件土地については大阪法務局中野出張所昭和三三年二月一一日受付第二七六一号でもつて昭和三三年二月五日売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記)をなし、昭和三三年七月七日当時元利金合計は五百数十万円に達していた。

(二) 訴外敏夫所有の大阪市住吉区緑木町二丁目八番の一雑種地及び訴外哲治郎所有のこれに隣接する右二丁目九番雑種地一一、九一〇・九三平方米(三、六〇三坪〇六)は共に訴外国光製鋼株式会社に賃貸していたが、訴外敏夫は当時多額の負債を抱えその返済に窮していたため、右二丁目八番の一を訴外国光製鋼に売却して右負債の返済に当てようとしたところ、訴外国光製鋼より足許をみすかされて更地なら三・三平方米当り一萬数千円乃至二萬円以上する右土地を三・三平方米当り四、〇〇〇円にたたかれた上、二丁目九番を一括して売らない限り買うことができないと突つ放された。

(三) そこで、訴外哲治郎は甥に当る訴外敏夫に懇請されその窮状に同情して自己所有地を売却することにしたが、せめて三・三平方米当り七、〇〇〇円で買取つてくれるように交渉したが容れられず、止むなく昭和三三年五月二九日三・三平方米当り四、〇〇〇円で売るはめになつた。このため、訴外敏夫は三・三平方米当り七、〇〇〇円と四、〇〇〇円の差額三、〇〇〇円を訴外哲治郎のために補償する趣旨で自己所有の大阪市住吉区中加賀屋町三丁目三二番地宅地三、〇四七・八〇平方米(九二一坪九六)を無償で提供し、且つ現金五〇〇萬円を支払う旨約した。

(四) しかし、訴外敏夫が即座に右補償金五〇〇萬円を訴外哲治郎に支払つてしまつたのでは、他に返済すべき多くの負債を抱え、前記二丁目八番の一の売却代金をもつてしても、訴外荒木に対する右債務の支払ができなくなるおそれが生じ、訴外哲治郎はこのため訴外敏夫より受取るべき右補償金五〇〇萬円をもつて訴外敏夫のために右債務を肩代りして支払つてやることにし、昭和三三年七月七日訴外荒木より右債務を四七〇萬三、二〇〇円に負けて貰い、これを右補償金から全額弁済し、右債務の担保となつていた本件土地外五筆の仮登記上の権利を譲受け、その旨の移転の附記登記を受けたのである。

三、本訴請求原因三項中訴外哲治郎が昭和四〇年六月二一日死亡し、被告らがその相続人になつたことは認める。

四、本訴請求原因四項について訴外哲治郎及び被告らはこれまで本件土地に立入つたことはなく、本件土地を使用収益しているのは原告自身にほかならない。

(反訴請求原因)

一、訴外哲治郎は前叙のように訴外敏夫のために訴外荒木に対する債務を肩代りすべく、昭和三三年七月七日訴外荒木に四七〇萬三、二〇〇円を支払い、本件土地の仮登記上の権利を譲受け、同年七月九日右仮登記の移転の附記登記を受けた。

二、訴外哲治郎はその後訴外敏夫よりその求償債務の支払がないため、訴外敏夫に対し右仮登記上の権利である売買予約の完結権を行使すると共に、昭和三四年一二月四日訴外敏夫より右本登記に必要な委任状及び印鑑証明書等の交付を受けたのであるが、昭和三五年四月一日より施行された不動産登記法の一部改正により登記上の利害関係人の承諾がなければ本登記手続をなすことができないことになつた。

三、しかし、訴外哲治郎は本件土地の所有権を正当に取得したものであり、原告の前記仮登記及び本登記はいずれも訴外哲治郎が附記登記によるその移転を受けた前記仮登記より後順位にあるから、訴外哲治郎は右所有権の取得をもつて原告に対抗することができるのである。

四、但し、訴外哲治郎は昭和四〇年六月二一日死亡し、被告らが本件土地の所有権を相続により承継している。

五、よつて、被告らは原告に対し本件土地につきその申立どおりの各抹消登記手続を求める。

第四、証拠関係(省略)

別紙目録

大阪市住吉区南加賀屋町二〇番の一

一、宅地  三六八・四六平方米(一一一坪四六)

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